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弊社代表取締役会長・細田雅春の取材記事や発表した文章などを随時掲載しております。

代表取締役社長

続・中国の事情から何を読み取るか
データめぐる競争時代へ問われる覚悟

昨年夏(8月7日付、22日付)2回にわたって、中国の動向、特にデジタル社会の実情や、巨大都市における建築の様相と都市戦略について述べたが、今回は改めて、いま中国のハイテク先進型都市の事情とその世界戦略について紹介したい。

2018年10月23日、全長55キロ、世界最長の海上橋「港珠澳大橋」の開通式が習近平総書記を迎えて賑々しく挙行され、中国の戦略の具体的行動の一端が示された。

港珠澳大橋は、香港の国際空港があるランタオ島から人工島を経由して、マカオと隣接する広東省珠海市を結ぶ長大な海上橋だ。珠江湾を東西に結ぶ連絡橋として、09年の着工からようやく完成した、中国の威信をかけた大事業である。現地で実際に見ると、その壮大さ、巨大さには圧倒される。その1カ月ほど前に全面開通した、香港と広東省広州市を結ぶ広深港高速鉄道と合わせ、中国の国家戦略「広東省、香港、マカオの大湾岸圏(グレーターベイエリア)」構想がいよいよ稼働し始めた。

大湾岸圏構想が稼働 停滞も勢いとまらず

こうした一連のインフラ整備は、南シナ海への進出と合わせて、中国の一帯一路構想が着実な歩みを進めていることの裏付けであろう。

中国の国家戦略を読み解くにあたっては、それぞれの都市戦略を包括する戦略を知る必要がある。その成果が広深港高速鉄道であり、港珠澳大橋プロジェクトなのである。単に一都市の問題ではなく、ITを核にして、中国全土の主要都市において金融、商業、製造など各分野の緊密な複合による相乗効果に対する期待の表明でもある。

08年、「国家知的財産権戦略綱要」を発表、知的財産権の水準を高める方針を打ち出し、ハイテク企業など関連産業の国家的支援に乗り出したのも、その文脈に沿った結果である。

また、中国はITと製造業の融合により25年までに世界の製造強国、さらに45年にはそのトップとなって、49年の建国100周年を迎えることを宣言している。例えば16年には、起業やイノベーションのハイレベルなモデル拠点として、北京市海淀区、天津市浜海新区、深セン市南山区など全国28カ所を指定、さまざまな特別的支援を始めている。また北京市と杭州市に拠点を置く世界第4位のIT企業アリババや、深セン市のファーウェイ、ZTE、テンセントなどの企業の成長にも一層の期待が集まっている。

最近、中国の経済はハイテク産業も含めて停滞しているという現実も各所で露呈しつつあるが、したたかな中国の勢いはまだとどまることはないというのが偽らざる感想だ。

知財の覇権争い激化 米中超え高まる危機

前置きが長くなったが、中国の動きにも見られるように、いま世界戦略の要は知的財産権の覇権争いである。IT大手のGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)に代表される企業によるデジタル空間の独占に対し、世界は強い危機感を持っている。そうしたIT独占に対して、EU(欧州連合)、日本は言うまでもないが、中国も米国に次ぐ最先端にいる立場から、さまざまな思惑を描きながら米国を凌駕する国家戦略を立てている。それが建国100周年を見据えた世界一戦略である。

こうした中国の世界戦略に対して、米国の困惑と焦りはいかばかりか。中国のIT企業の隆盛はBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)を始め、米国の未来をも飲み込む勢いを示し始めているからだ。いまやデジタル企業は国境を超え、世界中の利用者のデータを蓄積、管理している。こうしたIT戦争の現実に、日本のモノづくりという立ち位置も揺らぎ始めることは間違いない。なぜならば、もはやITなくしてモノづくりはできなくなるからである。

グローバルなデジタル空間での事業展開はともかく、「法の秩序」に対する取り組みについていえば、中国は、国際的に通用するルールに則った企業の育成環境が整っていないという意味で、まだ国家として問題を抱えたままだ。例えば、大企業が弱小企業を傘下に抱えていることが挙げられよう。表に出る大企業がコンプライアンスを順守していたとしても、小さな企業はその巨大な傘の下、さまざまな規制をかいくぐり特許を侵害して粗悪なコピー商品で市場を混乱させることもあるからである。

もちろん特筆すべき点もある。例えば深センの「デザインハウス」の存在である。大手電子機器の下請企業であったそれらの「デザインハウス」は、企業のアッセンブラー(まとめ役)を経て、現在ではファーウェイなど大手企業のサプライチェーンとしても存在感を増している。

そうした中、昨年末に米国がファーウェイ製品の排除を同盟諸国に求めるなど、中国のハイテク企業に対する逆風が世界を駆け巡っているが、それでも中国という国の勢いを止めることはできないだろう。なぜならば、その技術の安定性と価格、さらには次世代通信規格5G対応を進め、国内外に存在感を示しているからだ。

「共有化と囲い込み」 境界に熾烈な争い

しかしながら、いま世界のIT企業によるデータ独占・寡占をめぐる競争は、ある意味では無政府状態であり、さらには戦争状態にあるといっても過言ではない。そんな中GAFAのデータが流出するという事態など、人々の安全にもかかわる問題が出てきた。もはやIT戦争は、米国と中国の問題ではなくなり始めている。EUや日本もそうした米国の独占と中国の専横には危機感を示している。

データをめぐる知的財産権問題は、日本の建築界でも深刻な課題になることは間違いない。これまでは、特許問題はあっても、権利の主張が紛争に発展することは少なかったが、もはや曖昧あいまいに処理されることは許されない「データという知的財産権」をめぐる時代に突入したのである。物事(データ)には、常にその根拠が付きまとい、併せて説明責任が問われるのである。データの「共有化と囲い込み」の峻別はこれからの課題であるが、その境界にはますます熾烈な競争が待ち構えている。建築界も、新たな競争社会に突入しつつあるという自覚は不可欠である。

日刊建設通信新聞
 2018年11月13日掲載2019年2月12日掲載