特集

2017年2月27日 取り組み

シーズ提案 新たなコンパクトシティ構築に向けて

はじめに

人口減少や高齢化により、日本の社会構造が大きく変化しています。私たちが住む都市のあり方も、成長期と同じままでは立ち行かなくなってくることは明白です。実際に、地方都市が衰退しつつあり、大都市部においても少子高齢化の波を食い止めることはできなくなっている現状があります。私たち、都市や建築を提案する者は、こうした状況に手をこまねいているわけにはいきません。

これからの都市・建築について考え、新たな都市のあり方に対の提案を行うことが、設計事務所の使命であり、また責務だと考えます。

その一つとして、佐藤総合計画は、シーズ提案と呼ぶ社会貢献活動を行うことにいたしました。今回提言を行うのは、我々がまさに直面している都市に関わる問題です。現在、都市再生の一つの形として提唱されているコンパクトシティ構想を、新たな視点の元に見つめ直していくことを目指しました。

社会の変化

21世紀に入り、工業社会から、IT技術の発展による情報社会へと変化してきました。この情報社会は、グローバリズムの影響を受けつつ、日本独特の社会や経済情勢にも影響を受けながら、新たな社会構造を作り出しています。言い古された言葉ですが、日本は成長社会から、成熟社会に入ったのです。人口問題への対応や物の豊かさから心の豊かさへの関心の変化、それと関連した産業構造やライフスタイルやコミュニティの変化などが具体的な表れと言えるでしょう。

中でも、人口減少はどの近代社会も経験していない出来事で、私たちはそこに対する有効な対策を未だに打ち出すことはできていません。2040年には、主要大都市圏以外の大半の市町村は現在の75%程度にまで人口が減少すると見込まれているほどです。さらに、少子高齢化の問題も深刻です。

日本は世界で最も高齢化率が高い国です。高齢化による世帯構成の変化は少なからずコミュニティや居住のあり方を変えていくことになります。

また、グローバリゼーションが拡大する一方、ローカルな情報の共有も情報社会の発展により進んでいます。地域社会の活性化のために、地域に根を張った産業を興隆させていくことが必要になるでしょう。

成長社会において強かった「モノの豊かさ」「均一に豊かな社会」への憧憬はすでに薄れ、「心の豊かさ」「自分らしい幸せのあり方」を求めるライフスタイルが浸透してきています。

このような状況において、都市構造もただ物質的に豊かである必要はなくなってきます。心豊かに暮らせる都市はどうあるべきなのか。人口が減少していく中、都市はこれ以上拡張される必要はありません。コンパクトでも豊かに暮らせることのほうが重要になってくると私たちは考えます。

人口減少は人口オーナス(負荷)として語られることが多いのですが、成熟社会にあって、人口が減っていくことは、むしろ社会が成熟するための一つのステップなのだと発想を転換していくべきではないでしょうか。

成熟社会での「つながり」とコンパクトシティ構築の背景

成長社会における都市は、スクラップアンドビルドという考え方のもと、スプロール化により急激に郊外に拡散しました。しかし、人口が減少し始めると、拡散した都市の中に人の住まない隙間、すなわち空き家がたくさん生まれてきます。スポンジ状になった都市においては公共インフラの維持も容易ではありません。 現在、社会や産業構造の変化に対応できず活力を失う都市が続出しており、2040年には900ほどの市町村が消滅するという危機的状況が叫ばれています。
今日衰退している都市における共通課題としては、①中心市街地のにぎわいの喪失、②郊外居住地の空洞化、③都市機能の維持負担増、④公共交通機関の維持困難などがあげられるでしょう。

現在、1998年の旧まちづくり3法を皮切りに、2006年の改正まちづくり3法や様々な制度が導入されてきていますが、まだ十分な成果に結びついてないようです。

かつて、都市計画家のケヴィン・リンチは『都市のイメージ』(1968年)で都市が視覚的に認知される5つの要因を明らかにしました。私たちは、そのうちの「ノード」が大きな参照概念になると考えています。さらに、市民運動家のジェイン・ジェイコブスはその都市分析『アメリカ大都市の死と生』(1969年)において、都市のゾーニング主義を大いに批判しました。私たちは、生活者の目線から発せられたこの批判を心に留めながら、これからの時代にふさわしい都市のあり方を検討していきます。

新たなコンパクトシティ構築にむけて

コンパクトシティは、必ずしも交通や都市機能の利便性だけを追求するものではありません。これからの時代にふさわしい「健全な都市」であり、グローバル化の中で「多様性」を許容しながら「しなやか」に「ゆったり」と「コンパクトに暮らせる」都市でなければなりません。

新たなコンパクトシティは、中心部と周縁部の自立と連携がバランスしたしなやかな都市構造を持ちながら、中心部(ノード)は個性ある都市機能(レイヤー)が重層、顕在化した、徒歩中心にコンパクトに暮らせる都市だと私たちは規定しました。

また、自然は都市において、開発のため破壊され消費されてきました。現在の都市は自然と共存しているとは言い難い部分があります。しかし、本来、自然と人間、そして都市は一体的であったはずです。成熟社会を迎えて、都市は緑や水といった自然ともう一度親しくなる必要があると私たちは考えます。

こうした考えに基づき、私たちは3つの提言を行います。

新しい自然との共生を考える―隅田川シーズ提案

水(川)、緑の自然と都市の関係性を強化したネイチャーシティの構築を提言します。特に東京のシンボルともいえる隅田川にスポットを当て、都市に自然を取り戻す方向を検討していきます。

川から見た美しい街並みや、乗ること自体を楽しむ交通など、都市に新たな要素(エレメント)を与え、隅田川流域の5つのエリアを舟運ネットワークでつなぐ新たな副都心「隅田川副都心」を構想します。

新たなコンパクトシティ構築にむけて

特に両国エリアは、JRと地下鉄、そして舟運のターミナルが重なるポテンシャルの高いエリアとして、にぎわいのあるエリア計画を提案します。

新しい自然との共生を考える―隅田川シーズ提案

水(川)、緑の自然と都市の関係性を強化したネイチャーシティの構築を提言します。特に東京のシンボルともいえる隅田川にスポットを当て、都市に自然を取り戻す方向を検討していきます。

水(川)、緑の自然と都市の関係性を強化したネイチャーシティの構築を提言します。特に東京のシンボルともいえる隅田川にスポットを当て、都市に自然を取り戻す方向を検討していきます。

ある地方都市にヘルスケアシティの考えをあてはめてみました。都市の持つ多様な機能が「健康」をキーに連携することで、生活の質の豊かな都市を実現したいと考えます。

新たな都市構造を考える―ジャンクションシティ構想

それぞれの地域が持つさまざまな機能の重ね合わせとして都市構造を分析し、これまでのツリー状の都市構造から、サークル上の都市構造へと新しい都市の基幹構造のあり方を提示します。

都市のノード(結節点)はさまざまなレイヤーによって構成されています。こうしたレイヤーを分析し、必要な要素を与えることで新しいにぎわいを生むことができると考えます。

このプロジェクトをPDFデータでご覧いただくこともできます。