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弊社代表取締役会長・細田雅春の取材記事や発表した文章などを随時掲載しております。

代表取締役社長

中国の事情から何を読み取るか(下)
したたかな都市戦略が描く未来への実験場

前回の特別寄稿では、主にITと経済的な側面から、現在の中国国内での動向について述べた。

今回はその基盤となるそれぞれの都市の動向について考えてみたい。中国は、2013年の「一帯一路」構想の発表以来、中長期産業政策の中で、現在の製造業の中身を質的に向上させる「製造強国」政策にかじを取り、技術革新の向上を目指している。さらにナショナル・イノベーションとして、文化的な向上をも併せて考えている。それは、習近平総書記が昨年秋に述べたように、今世紀半ばまでに「富国、民主、文明、和諧、そして美麗」の5つの目標の達成を掲げていることから見ても明らかである。

製造強国へ技術革新 5億人が60歳以上に

しかしながら、これから中国が直面するであろう人口問題、特に高齢化問題は相当に深刻である。日本の高齢化と同様な推移をたどることが予測されてはいるが、人口規模が極端に異なっている分、高齢者の数も極めて多数となる。現在、国連などの試算によれば、2050年には80歳以上の高齢者が日本の現在の人口に匹敵する1億2000万人、60歳以上だとなんと5億人にも達すると言われている。

さて、こうした現実を見据えながら中国は、様々なハイテク技術と合わせて金融や情報産業との連携を強化し、さらに文化、観光、教育などの分野から、ナショナル・イノベーションを達成しようと力を入れ始めている。

とりわけ、深センの事例を見ればその様子が良くわかる。中国国内での経済力レベルは北京、上海に次ぐ3番目の力を備えている。人口規模でも、経済特区に指定された1980年には人口30万人程度の寒村だったのが、現在は東京都の1300万人を凌駕する1400万人とも、一説には2000万人を数えるとも言われる。その人口増の背景にあるのは、香港からわずか2時間程度というアクセスの良さもさることながら、急速に発展する経済力とこれからの潜在的可能性に期待して集まる優秀な人材の存在である。事実、既に述べたように高齢化が危惧される中国国内にあって、例外的に若年層が65%、高齢者はわずか2%と言われるほど、若い力に満ち溢れた都市でもある。

著名建築家競う舞台 国際的な飛躍目論む

そうした状況の中、深センは「中国のシリコンバレー」とも呼ばれるように、ハイテク都市として実績を上げ、経済の裏付けを積み上げてきたのである。そうした実績の上に世界に先駆ける都市戦略を具体化してきた。その成果は着実に表れてきているが、さらに次なるステージへと進み始めているようだ。

すでに市内は、世界の著名な建築家が競い合う舞台のような華々しさに目を見張るばかりである。例えばザハ・ハディド、コープ・ヒンメルブラウ、そしてノーマン・フォスターにレム・コールハースなど枚挙にいとまがない。もちろん、磯崎新や槇文彦など日本の建築家も活躍しており、いまだどの都市にもない未来的実験場の様相を呈している。

こうした都市戦略は、内需に焦点を当てているわけではない。先にも示したように、中国はもはや今までのような外国需要に依存した単純な下請製造業の国ではなく、国際的に通用する産業国への飛躍を目論んでいる。

しかもそれは、目前に迫りつつある高齢化社会と人口減少への対応に則した国家戦略である。それゆえに、中国の有力な都市はそれぞれ国際的都市への脱皮を目標としているのである。とりわけ深センは、国家戦略である「インターネットプラス(互聯網+)」を踏まえながら、進化を続けるAI(人工知能)や次世代通信などのハイテク産業の分野で世界をリードする都市になりつつあるが、そうした分野との連携を強化して、インバウンドを意識した観光立市の可能性についても、香港に隣接するという立地性から見れば現実の視界に入っているという。

事実、わが社が最近国際コンペで勝利した深セン小梅沙エリアの水族館とリゾートホテル計画にも、国際観光都市に相応しい佇まいや機能を整えようとまい進する都市戦略の一面を垣間見ることができる。

巨大都市の力の集積 体制超えた実態示す

こうして見てくると、中国のいままでの成長を支えてきた原動力であった、安価な労働力に支えられてきた製造業の勢いが急速に陰り始めたことは容易に理解されよう。その根底にあるのは人件費の高騰である。もちろん、安価な労働力の不足という側面もあるが、比較的高学歴な知的労働者が増加したことで単純労働に従事する人口が減ったということも原因である。

しかしながら、少子高齢化が進めば生産年齢人口は減少し、徐々に国力をむしばんでいくという危機感が中国首脳部にある。そうした労働力不足を補填するために、さまざまな施策や戦略が噂されてはいるが、当面の課題はあくまでも、国内の資産だけに基づいた国力の底上げである。「製造強国」というスローガンは、AI技術を駆使した航空産業や宇宙開発、さらには次世代エネルギー開発などまさに将来の新たな産業育成に向けた戦略思考である。そこに文化や観光の観点を加味して、世界に向けた都市戦略を実践し始めているのが深センという都市なのである。

こうした次世代戦略を進めているのは、当然ここばかりではない。北京、上海、珠海などの沿岸諸都市や内陸部の重慶も、これ以上に大規模な都市戦略の構想を打ち出している。

今回は特に深センに注目したが、他都市の戦略もしたたかである。中国は一党独裁体制を敷く共産主義国家ではあるが、その広大な国土や多様な民族構成からしても、国全体を一元的に管理することなどできるはずはない。それぞれの都市、さらには都市を超えて、例えば深センを含めた「広東省、香港、マカオの大湾岸圏」が稼働しつつある。こうした、いわば独立国家のような巨大都市の力の集積こそが、現在の中国の実態だと言えよう。

いま中国の都市の動向は世界の注目を集めている。深センもまさにその一つなのである。

日刊建設通信新聞
 2018年8月22日掲載